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インヴれです。
~花で伝える感謝~
ベランダの一番日が当たるその場所に
ソレは申し分けなさそうにその存在を示していた。
伸びてきた蔓は棒にウネウネと絡みつき、
大きな葉っぱが付き始めた花の蕾を隠している。
夕立が降りそうになって来たので、
イングラムは珍しく洗濯物を取りに来たのだ。
いつもならクォヴレーが「洗う」から「たたむ」までしてくれるので、
イングラムは「洗濯」のことには一切関知していない。
関知しているとしたら「しまう」の部分だけだ。
しかし雨が降りそうだというのに、クォヴレーはまだ学校から帰ってきていない。
せっかく(クォヴレーが洗った)洗濯物が雨に駄目にされては大変だ、
と洗濯物を取りに来た次第なのである。
そしてベランダに足を一歩踏み入れたとき
ソレを発見し、今に至っている。
イングラムはしばらくソレと睨めっこをしていた。
もとろんソレが睨み返してくる筈も無いが・・・・・。
訝しげにソレの葉っぱに触れてみる。
ソレに触ったのは何年ぶりくらいだろうか?
自分が小等部の低学年の頃に触ったのが最後だから、
20年近く前のことだろう。
ソレの前に腰を下ろししばらくソレを見つめていた。
自然が好きなイングラムにとって
植物を眺める時間は心休まる一時の一つなのだ。
洗濯物を取り込むという目的をすっかり忘れ、
ソレの葉をチョンチョンつついていたその時・・・、
「う、うわぁぁぁーーーー!!」
と、背後から大絶叫が聞こえてきたのであった。
あまりの大声にびっくりして振り返ると、
この世の終わりでも迎えたような顔のクォヴレーがたっていた。
持っていたカバンをドサッと床に下ろすと
イングラムの横を通り抜け、慌ててソレを自分の身体で隠したのだった。
「???クォヴレー???」
「み、見たのか???」
「?何をだ?」
「だから!オレの身体の後ろにあるモノ!見てしまったのか!?」
「・・・・お前の身体の後ろ?・・・そのアサガオのことか?」
「!?」
クォヴレーは青くなる。
どうやらベランダに置いてあった「アサガオ」は
イングラムに見られたくなかったらしい。
はぁ・・・・と大きくため息をつかれ、
イングラムは申し訳ない気分になってしまっていた。
「・・・すまない。ソレ、見られたくなかったのか?」
「・・・・・・・」
「どうしてだ?」
悔しそうに、悲しそうに、ギュ、と両手を固く結ぶクォヴレーの手をとり、
自分の大きな手でその手を包み込んだ。
優しい笑顔を浮かべ手を擦っていく・・・・。
そしてなにも答えないクォヴレーにもう一度聞いてみる。
「どうして、俺に見られたくなかったんだ?」
「・・・・・・」
「お前がアサガオを育てていることが俺にバレると怒られると思ったのか?」
クォヴレーは頭を左右に振った。
「・・・では馬鹿にされるとでも?」
再び頭を左右に振る。
しばらく何も答えず、黙っていたがイングラムは答えないことを責めようとはしない。
ひたすらクォヴレーが説明を始めるのを待つかのように、手を擦り続けた。
そして数分間の沈黙後、うっすらと涙の浮かんだ目で
しゃがんでいるイングラムを見つめながら、
ポツポツ・・・とクォヴレーは話し始めたのだった。
「・・・・イングラムへのプレゼント・・・だったんだ」
「・・・・プレゼント?」
「課題だ」
「課題?」
「課題だ・・・、植物の観察・・・」
「(・・・高等部でそんな授業あったか??)そうか・・・」
「種から自分が育てた花を観察し、観察日記を付けたり、その葉っぱや花で栞を作る。」
「(選択授業だろうか?)・・・・それで?」
「だがこの授業の最終目的は・・・違うんだ」
はぁ・・・と大きくため息をつくクォヴレー。
握られていた手を解き、イングラムに飛びついた。
「きちんと花が咲くまで見られたくなかった!」
「・・・・花が咲かないと俺が馬鹿にするとでも思ったか?」
「そうじゃない!アサガオの育て方は簡単だ!
よほどのことが無い限り花は咲く!」
「(まぁそうだな・・・)」
「オレは・・・オレ、は・・・!
満開にアサガオが咲いた鉢植えをイングラムに渡したかったんだ!」
「??????」
イングラムはだんだん話が分からなくなってきていた。
最初クォヴレーは「自分へのプレゼント」と言っていた。
しかし「課題」に話が飛び、再び「渡したかった」と話が戻ってきたからである。
「(授業の最終目的・・・、それが分かればパズルは完成するのか?)」
「オレは”ありがとうの伝え方”という選択授業をとっている」
「(・・・”ありがとうの伝え方?”近頃は色々な選択授業があるんだな)」
「その授業では”日頃お世話になっている人にぴったりの花言葉の花を贈ろう”
というテーマが持ち上がったんだ!」
「・・・・クォヴレー」
飛びついてきたクォヴレーを抱きしめながら、優しく話しかける。
どうやらイングラムのパズルは完成したようだ。
「クォヴレー、顔を上げろ」
「・・・・・・」
クォヴレーは顔を上げない。
広い胸に顔を埋めスンと鼻をすすっている。
「イングラムの馬鹿・・・いつもベランダにこないじゃないか・・・」
「クォヴレー・・すまなかった」
「・・・謝るな・・・イングラムは悪くない・・・だが悔しい」
「・・・・・・・」
「悔しいんだ!イン・・・んぅ??」
本当に悔しい気持ちを伝えようと、顔を上げた瞬間、
クォヴレーの唇は塞がれた。
「んぅ??んっ・・・ん・・・んーー」
泣いているクォヴレーを慰めるため、
優しく蕩けるようなキスを数分、与え続けた。
唇が離れる頃には浮かんでいた涙は消え、
変わりに熱に犯されたようにトロンとなっている。
「くぉヴレー、俺は何も見なかった」
「え?」
「何も見てないし、知らない。
だから花が咲いたら・・・・・」
「イングラム!」
「・・・約束、だぞ?」
「わかった!大きな花をたくさん咲かせてイングラムに渡す」
「ああ、楽しみに待っている・・・、ところで」
「うん?」
イングラムに抱きしめられたまま首を傾げて質問を待った。
優しく微笑んでいる顔にポッと頬を薄紅色に染める。
「アサガオの花言葉は何なんだ?」
「!?」
「俺にピッタリの言葉なんだろ?」
「そうだが・・・」
「なんなんだ?教えてくれ」
「・・・な」
「な?」
「内緒だ!」
顔を真っ赤にさせたままそっぽを向く。
だがそれくらいで引き下がるイングラムではない。
更にしつこくクォヴレーを問い詰めた。
「内緒?どうしてだ?・・・いいだろ?教えても・・・」
「駄目だ!秘密だ!!調べるなよ!」
「・・・そう言われると調べたくなるなぁ」
「ぜーーーたい駄目だ!!」
「ふーん・・・・?」
頑なに教えてくれないクォヴレー意地悪い顔を向ける。
そんなイングラムの態度に眉を吊り上げ、何度も忠告を繰り返した。
「調べるなよ!!絶対だ!」
「・・・・知ってはいけないとは・・・不公平だな」
「そんなことはない!」
「いいや、不公平だ。
そんなことではここで見たアサガオを知らないことにするのは白紙にしなければ」
「!?一度言ったことを覆すのか!?」
「そうだ・・・、さぁ?白紙に戻されたくなければ教えろ」
「うー・・・・」
ムムムッと唇を尖らせるクォヴレー。
それを見て意地悪く口の端をあげるイングラム。
何分かの口論ののち、負けたのはクォヴレーであった。
「・・・わかった・・・だが教えるのは渡すときだ」
「・・・・妥協させる気か?」
「それくらいいいだろ!?渡すときには必ず教える」
「ふむ?・・・まぁ、いいだろう・・・楽しみに待っている」
「・・・・ああ、楽しみに待っていてくれ」
話がまとまりクスクス笑いあう二人。
そしてどちらともなく再び唇を重ねあった・・・・。
ちなみにアサガオの花言葉は【優しい愛情】である。
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